ギリシャ神話から

- 天翔るパエトン -

 

太陽の象徴である太陽神ヘリオスは、東の空から、

四頭立ての天馬で燃えさかる火炎車を引かせ、

西の果ての国オケアノスへと天翔ていきます。

 

天空を長い時間かけて走り続けるために、神話のなかでは、

しばしば下界で起こる事件の目撃者となり、証人としても登場します。

この神には、正妻ペルセイスのほかにロデにより七男があり、

その他にもクリュメネといった女性との間に何人もの子供がいました。

そのなかに、クリュメネとの子パエトンがいました。

パエトンは、成人してすぐにヘリオスに会いにやってきました。

ヘリオスはたいそう喜び、パエトンの望みなら

なんでも叶えてやろうと約束しました。

 

血気盛んな息子は、かねがねヘリオスの火炎車を

操縦してみたいと熱望していました。

それを聞いたヘリオスは、

「火炎車を引く四頭の荒馬を御すのは並大抵のことではない。

おまえの技術ではまだ無理だ。」

と忠告をしたのです。
しかし、パエトンはとうてい聞き入れません。

パエトンの熱意に根負けしたヘリオスは、

とうとう息子に火炎車を貸し与える約束をしてしまったのです。

はたして、意気揚々とパエトンは手綱を取りました。

しかし、いきりたつ荒馬はそれぞれが勝手な方向へと

狂ったように走り出したのです。

燃えさかる戦車は 大揺れに揺れ動きます。

しかも天空の高みに昇ってみると、下界は気が遠くなるほど

遙かな眼下にありました。

めまいと恐怖に襲われながら、パエトンは死に物狂いで手綱を握りしめました。

そんな必死なパエトンの努力もむなしく、

天馬どもは上空へ駆け上がったかと思えば、今度はどっと下降していくのです。

父ヘリオスから、くれぐれも地上には近づきすぎないようにと

注意を受けてはいましたが、もはやパエトンには

手の施しようがありませんでした。

アフリカのリュビアでは、火炎車に乗ったパエトンが

あまりにも地上に近づきすぎたために、山野も町も焼けて、

一面の砂漠に変わってしまいました。

近くの アイティオピアでは、燃え尽きはしなかったものの、

人々の顔も手足も真っ黒になってしまったのです。

走っても走っても、目の前の道は果てしなく続いていました。

焦りとたび重なる衝撃に疲れ果てたパエトンの力は、

とうとう尽きてしまいました。

パエトンの手が手綱から放れるやいなや、まっさかさまに墜落し、

エリダノス河へと落ちていってしまったのです。

彼の死を知った姉妹たちは、葬儀のときに嘆きすぎてポプラの樹に変身し、

あふれる涙は琥珀と化したといいます。


 

太陽の光は、地球や地球に住む生物たちには

欠くことのできない恵みを与えてくれます。

しかし、その光が強すぎると干ばつや日照りが起こるように、

使い方を誤ると、大火傷をしかねないという太陽を象徴するお話しです。