猫は毛皮を着替えて帰ってくる 第5話

 

ダイちゃんを迎えて三日目になると、
ダイちゃんをケージから、しょっちゅう出していました。
くうちゃんは、ダイちゃんを見かけると、シャーッと威嚇はしますが、
それ以上のことはしないと感じたからです。

 

ただ、ダイちゃんの方から、くうちゃんにハナチューをしに行くのが心配だったので、
私や夫のどちらもが見ていられないときは、ケージに入ってもらっていました。

ダイちゃんは、本当に物怖じしない性格だったのか、
ペットショップの、あの狭いケージに何ヶ月もいて、外の世界なんて
知らないはずなのに、目を離すと、すぐに、あちこちを探索していました。

そんなときも、時々私は、ダイちゃんに話しかけたりしていたのですが、
そうすると、ダイちゃんの鳴き方が、ちょっと普通と変わっていることに気づきました。
そして、それは、ミラムちゃんと、そっくりの鳴き方だったのです。

ミラムちゃんは、ニャーと鳴くときもあるのですが、
そのほとんどが、普通のネコでは聞いたことのないような鳴き方を
いろんなバリエーションで鳴いていた子でした。

「フー、ミャー」と鳴くときのイントネーションが「フー↘ミャー↗」だったり、
「きゅるるるる」と鳴いて見せたり、何かをするときは「フニュッ」だったり、
ニャーのときも、高い音階の時もあれば、低めの音階の時もあったり、
ニャーではなく「アーン」だったり、それが「アンッ」と短くなったり。

ミラムちゃんが機嫌のいいときに、続けていろんなバリエーションの鳴き方をすると
まるで、ネコが歌を歌っているかのように聞こえるときもあったくらいでした。

他の、おうちの中だけで飼われているネコは
やはり、普段、どんな鳴き方をして、どんな生活をしているかを
知ることは出来ないので、何とも言えませんが、
少なくとも、外にいるネコちゃんや、テレビで見るネコちゃんでは
ミラムちゃんのような鳴き方をする子は見たことがありませんでした。

その、ミラムちゃんの独特の鳴き方を、うちに来て3日目のダイちゃんが、
全部ではありませんが、まったく同じ声と音階で鳴いたのでした。

ちょっと驚いた私は、ダイちゃんに
「なんでミラムちゃんと同じ鳴き方をするの?
ショップの中にアビシニアンのお友達でもいたの?」
と、頭をなでながら聞いても、当然ですが答えてくれません。

不思議な子だな、なんて思って見ていると、
くうちゃんに威嚇されながらも、
ダイちゃんが、ほんの少しずつリラックス出来るようになってくると、
鳴き方だけでなく、いろんな仕草が、まるでミラムちゃんと、そっくり同じです。

そういえば、ショップで見たとき、ダイちゃんの目が、形とか色とかではなく、
目の輝きのようなものが、くうちゃんとそっくりというか、
まるで同じ目の輝き方をする子だなと思って見ていました。

それは、二匹は毛色は違うから、全体を見れば見分けがつきますが、
目だけを見ていると、見分けがつかないと思えるほどだったのです。

しかし、よくよく思い出してみると、くうちゃんが、うちにやってきて、成長してくると、
いつの間にか、目つきというか目の輝き方が、
ミラムちゃんと、そっくりになってきたなと、ずっと思っていたのでした。

そうなんです。
くうちゃんと、そっくりの目を持っているのはミラムちゃんだったと
鳴き方も仕草も、ミラムちゃんと同じ姿を見せつけられて、
ようやく気づくことが出来たのでした。

それを気づいた瞬間の時は、夫もくうちゃんも
みんなでダイちゃんを囲んでいるときでした。
私が気づいたと同時に、先に声を出したのは夫でした。

「もしかして、この子、ミラムちゃん…!?」

そのとき、くうちゃんを見てみると、
それまで、ダイちゃんに対して威嚇を続けていたはずなのに、
急に威嚇をやめ、ボーッとダイちゃんを見ていました。

そして、その瞬間から、くうちゃんの威嚇がなくなっただけでなく、
今度はくうちゃんの方からダイちゃんにハナチューをし、
ダイちゃんと一緒に遊び始めたのでした。

それはまるで、くうちゃんも私たちと、ほぼ同時に、
目の前にいる、それまではやたらと馴れ馴れしい奴と思っていたネコが、
実はミラムちゃんだったと気づいたかのようでした。
そのときから、くうちゃんの態度は一変したのでした。

それは、ダイちゃんが来てから4日目の出来事でした。

 

 

若かりし頃のくうちゃんです。