その1 出会い

 

せーりー君が旅立ってから、およそ20日が経ちました。
その時間は、短くも感じ、長くも感じ、
振り返ってみても、少し複雑で、
ひと言ではいい表すのは難しいかもしれません。

実は、せーりー君とのつき合いは、
せーりー君と出会うずっと前から始まっていました。

そんな、少しおかしなことを、物語風に何回かに分けて、
気ままに書いていきたいと思います。

気が向きましたら、おつき合いください。


☆**――――――――・・

せーりー君と出会ったのは、今から12年前の
神奈川県の丹沢の麓に住んでいた頃です。

私たちは2階建てのテラスハウスを借りて、
丘の下の方に住んでいました。

私たちの家の前には、小堺さん(仮名)という気の良さそうな女性が
高校生の息子と二人で暮らしていました。

小堺さんは、ミーという女の子のネコを飼っていたのですが、
その子とは別に、外ネコとして、
小堺さんの家に住み着いていたミケの雌ネコがいました。
そのミケは、前に近所で飼われていたネコだったらしいのですが、
そこのおうちが引っ越しをしてしまい、
その時に、置き去りにされてしまった子だということでした。

私たちが、そこに引っ越したときには、
そのミケは、すでに小堺さんから、毎日ご飯をもらっていたのですが、
一度、人間に裏切られたネコは、なかなか懐かないらしく、
小堺さんとでさえ、ある程度の距離を置きながら
そこに暮らしているようでした。

ある日、そのミケが、子ネコを何匹か生みました。
その時の父親は分からないということだったのですが、
小堺さんは、「しょうがない……」と言いながらも、
その子ネコたちにも、ご飯を毎日あげるようになりました。

そして、それから、さらに半年と少し経った頃、
その時生まれた子ネコたちの中の、一匹の雌ネコが、
またまた子ネコを、三匹ほど生みました。

これで、小堺さんのところのネコは、10匹近くになってしまいました。

さすがの小堺さんも、これには参ってしまったようでした。
小堺さん本人は、この子たちはうちのネコじゃないと言い張ってはいたものの、
毎日ご飯をあげていては、近所の人の誰もが、そんな言い分を認めてはくれません。
しかも、小堺さんの高校生の息子さんが、
その三匹の子ネコを大変かわいがり始めてしまったので、
小堺さんとしては、どうしようもありません。

その三匹の子ネコたちは、三匹ともが男の子で、
生まれながらに肉付きが良く、まるまると太っていて、
そのコロコロとした三匹がじゃれ合っている姿は、
端から見ていても、とってもかわいらしく映りました。

そのため小堺さんは、息子の気持ちを尊重して、
その三匹の子ネコと、子ネコの母親を
外ネコから家ネコへと昇進させて、自宅への出入りを許すことにしたようです。

その子ネコたちのおばあちゃんとお母さんは、
人間嫌いの雰囲気もあったのですが、
その子達は、とても人なつっこく、性格も良さそうに見えました。

ちなみに、その子達のお父さんは、
近所でも悪賢くてたちが悪いと評判のボスネコのようです。

そのボスネコが、まだ幼さが残る雌のネコを追っかけまわしていたのを
私も含めて、何人かが目撃していたことと、
普通のネコよりもひと回り大きなそのボスネコに
柄がそっくりな子が、子ネコの中に一匹混ざっていたので、
誰もが、そのボスネコこそが父親だということを、疑うことはありませんでした。

三匹の子ネコの柄は、一匹が白エプロンのキジトラ、二匹が全身茶トラです。
白エプロンのキジトラの子が、その柄の隅々までが、
悪賢いと評判の大きなボスネコと同じだったのです。

ちなみに白エプロンというのは、背中が黒や茶の柄でありながら、
おなかと足の部分が真っ白な柄のことを指します。^^

その三匹の子ネコは、大変仲が良かったのですが、
白エプロンのキジトラの子だけは、時々、単独行動をしていました。

まだ、生後一ヶ月も経っていないのに、たった一匹で
小堺さんの玄関先で寝ていたり、
ご飯の時なんか、他の大人のネコに混じって、
なぜか、まだヨタヨタとしか歩けない小さなネコが一匹だけ紛れて
一緒になってご飯を食べていたりと、やたらと目立つ行動をするのです。

自然に、私たち夫婦の目も、その子に釘付けになっていました。

そして、不思議なことに、その子の方も、
私たちを、いつも気にしているのが分かるのです。

それは、三匹の子ネコが、お母さんネコに甘えながら
おっぱいをもらっているときでさえ、私たち夫婦が横の道を通ると、
その子だけは、おっぱいを飲むのを止めて、ずっと私たちの方を
見つめ続けるということが、よくあったのです。

そんなある日、小堺さんの奥さんから、うちの夫殿にコッソリと、
「お願いだから、息子が留守の時に、この子たちを
山の方に捨ててきてくれない?」と耳打ちされたそうです。

小堺さんとしては、成り行きでネコたちの面倒を見てしまったものの、
わずか一年も経たないうちに、ここまで増えてしまうなんて、
想像もしていなかったようなのです。

しかし、うちの夫殿は、
「三匹の子ネコのうち、一匹はうちで貰って育てるから、
あとの二匹は、このまま育ててくれませんか?」
と、取引をしたそうです。
それに対して小堺さんは、
「一匹貰ってくれるの!?
じゃ、それでいいわ。とにかく好きな子、どれでもいいから持ってって」
ということになり、旦那殿は迷うことなく、
「じゃ、この子♪」
と、白エプロンのキジトラの子を掴み取りました。

私はその時、近所に買い物に行っていて、帰ってきたら小堺さんと旦那殿が
うちの玄関先でひそひそ話をしていたかと思ったら、いきなり
「この子が、今日からうちの子になったから♪」
と、白エプロンのキジトラの子を抱きかかえ、私によこしました。

夫殿は、ネコを飼うのは始めてだったのですが、
私は、昔から犬猫を始めとした動物好きで、
犬もネコも子供の時から一緒に生活していたということもあるし、
そのキジトラの子ネコは、前から私も気になっていたので、
なんの抵抗もなく、そのまますぐに家の中に入れることになったのです。

そして、不思議なことに、その子が家に来てから、
私がそれまで、半年近く見続けていたひとつの夢があったのですが、
その夢の内容が、大きく変わることになったのです。

 

 

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