序章 落ちていた野生のタヌキの赤ちゃん

 

少し前の日曜日のことになります。
自宅のすぐ裏の川にタヌキの赤ちゃんが落ちていたのを
保護したという出来事がありました。

裏の川は、幅が約3メートルくらいで
川に降りるまでの深さが4メートルくらいですが、
水は、普段は、少ししか流れていないというような感じの川です。

ただ、川に降りるまでは、
しっかりと、石垣がきれいに敷き詰めてあるので、
人間はもちろんハシゴを使わないと 上り下りはできないし、
タヌキでも、その石垣を昇るのは無理だろうと思えるような川です。

そんな川から、土曜の夜中くらいから、
ずっ と、動物の、けっこう悲痛な鳴き声が聞こえてきていました。

でも、最初は、ずっと鳥だと思ってたんですね。
きっと、鳥の巣に、青大将が雛や卵を食べに行って、
それで親鳥が騒いでいるのかと思っていました。

そんなときは、それが自然の摂理だから、
人間が手を出すことはできないと考えているので、
鳴き声がどんなに悲痛でも、放置するしかありません。
外も真っ暗だったし、あんまり熟睡はできないけど、
そのまま眠ることに決め込みました。

でも、朝になって、夫が庭に出て川の下を覗いてみると、
そこには、鳥ではなく、
何か小さな黒っぽい毛皮を着た動物がいるようなのです。

最初は子犬かと思ったので、
それなら助けなければと、近所の人からハシゴを借りてきて、
夫が下に降りて、衣装ケースのようなプラスチックの入れ物に、
その子を入れて、連れてきてくれました。

怪我をしているにも関わらず、
けっこう気が荒いので、直接に触ることはできなかったんです。

でも、よく見ると、どうしても子犬には見えず、
タヌキのように見えるけどと思うものの、
タヌキの赤ちゃんなんて見たことがなかったので、
なんの生き物か判別できずにいました。

とにかく、大怪我をしているようなので、
早く何とかしてあげないとと思いながらも、
犬猫とは違うので、どうしていいか分かりません。

とりあえず、ネットで検索しながら、
市役所に電話してみたり、動物愛護センターに
電話してみたりしたのですが、
その日は、あいにくの日曜だったので、
どことも連絡が取れず、困り果ててしまいました。

ようやく、少し離れた場所の動物園と連絡が取れたものの、
タヌキなら保護するけれど、アライグマやハクビシンだったら
駆除の対象となると言われ、見た感じ がタヌキとは思うものの、
もしそうでなかったら、わざわざ連れて行って、
駆除されるてしまうのも嫌なので、
やっぱり、途方に暮れてしまいました。

そこで、その小さな生き物の種類が何かハッキリさせるために、
今度は動物病院に電話をしてみました。

そうして、いろいろと、紹介から紹介をされ続けて辿り着いた病院が、
なんと野生動物の保護までしてくれるという動物病院で、
しかも、自宅から近くはないけど、そんなに離れていない距離だったので、
さっそく夫の運転する車で、その子を連れて行きました。

行くと、すぐに、「これはタヌキですね」
と教えてくれると同時に、大けがをしているので、
すぐに診療室に連れて行って、治療が始まりました。

あまりの手早さに、私たち夫婦は、どうしていいか分からず
ボーッとしていると、
「治療代はもちろんいりません。
できるだけ野生に返 せるようがんばってみますが、
怪我がひどいのでどうなるか分からない状況です。
ご心配だったら、いつでも気軽に電話をください。」
と、受付の人に言われ、なんだかホッと安心して
家路に着くことができました。

しかし、夕方になって、またまた夫が川を眺めていると、
向こう岸の方の、小さな木の枝の上に、やはり小さな毛皮が
それにすがりつきながら、もぞもぞと動くのが見えます。

またまた近所の人 にハシゴを借りて、
その子を保護して、近くで見てみると、やはりタヌキの赤ちゃんで、
きっと、さっきの子の兄弟で、
一緒に上から 落ちてしまったんだと予想できる状況でした。

再び、さっきの動物病院に連れて行くと、
今度の子は、衰弱はしているものの怪我はないので、
先生たちは嬉しそうに、
「この子は野生に返せますね。」
と言って、さっそく奥へと連れて行ってしまいました。

去年の暮れに旅立った、先住ネコのせーりー君のときに、
お世話になった獣医さんは、
きっと、動物よりもお金が好きなのねと思わせる人だったので、
獣医さんに対して、少し偏見を持ち始めてしまっていたのですが、
そこの病院の獣医さんは、どの人たちも
動物が大好きと、すぐに分かる人たちばかりで、
とてもホッとできる病院でした。

タヌキのチビちゃんが、川に落ちていた理由はハッキリはしませんが、
たぶん、去年に、裏の山を削って、住宅地にしてしまったので、
住む場所を奪われたタヌキの親子が、
うちのすぐ裏の、小さな崖のところに巣を作って、
子育てをしていたものの、そこは急な坂なために、何かの拍子に、
赤ちゃんたちが落ちてしまったんじゃないかと考えられます。

私たちが住むこの場所は、スタジオジブリの「平成狸合戦ぽんぽこ」の
モデルになった場所のすぐ近くというか、
うちも含まれるのかもしれない というくらいのところです。

タヌキを追い出して開発し続けている場所のわけですが、
アニメの最後には、タヌキと人間が共存する道 を探っていこう、
というようなことを言っていたように思うのですが、
それは、ほとんど実現されずに、人間の人口は減っているにも関わらず、
人間の住宅を、相変わらず山を崩して作り続けています。

そんな風に、人間のエゴをむき出しにしている人達の反対側には、
その動物病院の人たちのように、(たぶん)ボランティアで、
そんな風に追われてしまった動物たちを
また野生に返す努力を必死に行っている人たちがいることを
知ることができました。

ハシゴを貸してくれた近所のおばあちゃんは、
「タヌキでも良いことをしてあげたんだから、
きっと良いことが返ってくるよ。」
と言ってくれたのですが、その良いことというのは、
その動物病院の人たちとの出会いこそがそうだったんだと確信しています。


それから、その大怪我をしたタヌキのチビちゃんのおかげで、
いろいろと感じることもあったのですが、
それは、また、次の機会にでも、書いてみたいと思います。

とりあえず、今は、タヌキの赤ちゃん達は、
二 匹とも、元気にミルクを飲んでいるそうです♪

 

 

                       2章 タヌキの赤ちゃんから感じたこと >>