その7 優しさ

 

今回は、せーりー君の生涯の中で、もうひとつの大きな節目となった、

ミラムちゃんとの出会いとエピソードに触れたいと思います。


ミラムちゃんがうちに来たのは、せーりー君が4歳の時でした。
サリーちゃんが、すぐに死んでしまったので、
けっきょくせーりー君は、しばらく一人っ子として暮らしていたのですが、
私たちが家に帰ると、ネコなのに、わんちゃんのように玄関でずっと待っていたりと、
相変わらずの寂しがり屋さんだったので、やっぱりお友達を捜すことにしました。

私が血統書付きのネコを飼ったのは、サリーちゃんが初めてだったのですが、
そのサリーちゃんが、私にとっては本当に良い子だったので、
また、血統書付きの子も含めて、ピンと来る子を探すことにしました。
本当は、かわいそうな境遇の子を中心に探すのが優しさなのかとは思うのですが、
私の場合は、ただ同情するだけでは、そこから10年とか20年とか
一緒に暮らすことはできないなと、これは今でもそう考えています。
とにかく最初に会ったときに、「この子好き♪」と思える子を探すことにしました。
この辺は、せーりー君のお友達と言いながら、人間の都合です。(汗)

その時は、アビシニアンという種類のネコに、強い興味があったので、
ネコの雑誌で、やっぱり格安で譲ってくれるブリーダーさんを探して連絡を取ってみました。
ミラムちゃんのブリーダーさんは、ブリーダーさんと面接をして、
合格すれば、ネコを譲ってくれるという方式でした。
面接のときは、私は丈の長いスカートをはいていったのですが、
その時に、ミラムちゃんが、私のスカートの中に入って、スカートの中で遊ぶなどをして、
すぐに懐いてくれたので、面接に合格して、ミラムちゃんと一緒に暮らすことになりました。

最初にミラムちゃんが家に来た日は、やはりせーりー君は、
ミラムちゃんを気に入り、すぐにちょっかいを出していました。
でも、ミラムちゃんは、私から見ると、せーりー君やサリーちゃんと比べると、
警戒心の強い所などは、一番ネコらしいネコのような感じがしています。
なので、せーりー君に対しても、最初は警戒して、シャー、シャーと言いまくって、
せーりー君を自分には近づけないようにしていました。
それに対してせーりー君は、最後には深く傷ついてしまったようで、
夫殿に抱きついて「ふにゃ~~」と言いながら、夫殿の胸に顔を埋めて泣いていました。
その様子は、せーりー君にはかわいそうなのですが、とってもかわいらしかったです。
でも、家に来て二日もすれば、ミラムちゃんも、せーりー君に心を許すようになり、
すっかり仲良くなってきました。

ただ、そんな気の良いせーりー君にも、ネコとして大きな欠点を持っていました。
それは、かみ癖です。
生後30日足らずで兄弟と引き離してしまったので、
そういう子は、噛み加減を覚えることができないということになるらしいのです。
せーりー君も例に漏れず、気に入らないことがあるとおもいっきり噛んでくるのです。

例えば、日常的には、おなかが空いてご飯を要求するときは、
人の踵や足首を狙って噛んできます。
これは、せーりー君にとっては、おなかが空いたという表現方法なのですが、
こちらとしては、血が出るくらい痛いので、丈の眺めのジャージをはいて対処していました。
せーりー君が、いくらジャージの上から噛んでも、さすがにそれは痛くないので、
好きなだけ噛んでなさいと、おおらかな態度を示していると、

自分の思いが伝わらないというのが悔しいのか、

今度は、ジャージの裾をめくって、直接噛んだりするのです。
中途半端に利口なネコは、本当に困ると思ってしまった瞬間でした。

それに反してミラムちゃんは、とても臆病で、すぐにパニックを起こしてしまうのですが、
普段は、仕草がとても優しく、噛むのは甘えて、優しい甘がみしかしません。
抱っこをすると、本当に優しく、手というか前足を、人の顔に近づけて
目を細めながら、なで返してくれるような仕草をします。
せーりー君も、そんなミラムちゃんの優しい仕草に、心を打たれる瞬間もあったようです。
でも、そんな感じなので、私がミラムちゃんには、いつも優しく話しかけるのに、
せーりー君には、つい、「せーりー!!」ときつい口調になってしまうことが多く、
それがせーりー君には気に入らなかったのか、ミラムちゃんと大げんかをしているときもありました。

せーりー君とミラムちゃんのケンカは、力では断然せーりー君が勝っていましたが、
俊敏さでは、ミラムちゃんの方が数段上です。
以前にテレビでやってたネコの番組で、すべてのネコに当てはまるかどうかは分からないのですが、
ネコのケンカの勝敗は、どちらかが高いところに登った方が勝ちだという
ネコ独特のルールがあると言っていました。
そういう意味では、いつも勝つのは、先住ネコのせーりー君ではなく、

後から家に来たミラムちゃんでした。
確かにせーりー君は、ミラムちゃんが、せーりー君には登れない高いところに逃げてしまうと、
いつも悲しそうに鳴きながら、私たちのいるところに戻ってきて、
寂しそうに身体を丸めて寝る体制に入ることが多かったです。

そんなこんなで、ミラムちゃんが来て、楽しいこともたくさんありましたが、
せーりー君にとっては、試練に感じることも多かったようです。
でも、人と人とのつき合いもそうですが、
そうやって、傷ついたり喜んだりしながらつきあっていくうちに、
深い部分での優しさを失わなければ、心はどんどん成長していくように思います。
せーりー君も例外ではなく、そうやって大人になるに従って、
子供のときの、人に血を流させるくらいのかみ癖は、すっかりなくなってしまっただけでなく、
私たちと触れるときの手の仕草が、ミラムちゃんのように、
本当に優しく、ソッと触れるようになってきたのです。

せーりー君は、元々は人見知りのしない、ある意味、度胸のすわったネコだったので、
それに優しさが加わると、何か一緒にいて、安心感を感じることも多くなってきたように思います。

でも、それに反して、せーりー君は、元々心臓が悪かった上に、
たいへん太っていたので、徐々に体調は悪化していっていたのかもしれません。

 

 

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