その4 白いネコのお話 中編

 

家に着くと、いつものようにせーりー君は、大歓迎のお出迎えをしてくれました。
いつもと違うのは、私が持っていたキャリーバックのフタを開け、
せーりー君に見せたことです。
好奇心旺盛なせーりー君は、すぐに中を覗き込みました。
すると、そこには、少し不機嫌な顔をした、真っ白な長毛の子猫の女の子がいます。
少し、驚いた顔をしたせーりー君でしたが、
すぐにお友達になろうと、ちょっかいを出し始めました。
でも、そんなに、すぐに、なんにでも興味を抱いてちょっかいを出すのは
せーりー君の方だけで、サリーちゃんの方は、
初めて来た場所や、いきなりのせーりー君の歓迎に驚いてしまい、
適当な箱を見つけて逃げ込んでしまいました。
だけど、3時間もすれば、誕生日がたった二日違いの二匹ということもあって、
すぐに仲良くなりました。
けれど、いつも追いかけるのは、せーりー君の方で、
サリーちゃんは、元々ひとりでいるのが好きな子です。
うちに来てから2,3日たった頃に、
もういい加減にしてよ、という雰囲気がサリーちゃんからにじみ出ていたので、
ちょっと試しに、サリーちゃんだけを、ケージに入れてみました。

ケージは、元々、せーりー君用に用意してあったものでした。
せーりー君は、目を離すと、何をしでかすか分からないやんちゃな子ネコだったので、
出かけるときや、私たちが寝ているときなど、見ていることが出来ないときは、
仕方なく、ケージに入ってもらっていました。
でも、やっぱり、すごくいやがって、暴れて出たがっていたのですが、
見ていないと、瀬戸物やガラス製品などに、ちょっかいを出すと危険なので、
いけないことがしっかり分かるまでの、仕方のない処置だと思っていました。

一方、なにか肝が据わってる風のサリーちゃんが、
ケージに入れたとき、どんな反応を示すか興味があったことも事実です。
すると、サリーちゃんは、ケージに入れられて、カギを閉められると、
ケージの中を、ゆっくりと回りながら、ケージのチェックを始めたようでした。
そして、どこからも出入りが出来ないことを確認できると、まるで、
「やった。これで、せーりー君に邪魔されずに寝ることが出来るわ。」
とでも言っているかのように、ゲージの真ん中で優雅にグルーミングを始め、
グルーミングが十分に終わると、文字通り大の字になって、そこで寝始めました。
その様子を見た私は、「この子、ただ者ではないかも」と、真剣に思ってしまったものです。
好きなだけ寝て目が覚めると、やはり余裕を持って優雅に伸びをしたかと思うと
ケージの出口のところまで来て、
「もう、十分寝たから、ここから出して」と、言っているかのように
私の顔を見つめながら、余裕のある鳴き声を発していました。
もちろん、すぐに出してあげました。

せーりー君も、そのサリーちゃんの様子を見て、
「ケージに入ったくらいで、騒いじゃいけないんだ。」と思ったようで、
その時も、少し恥ずかしそうな様子だったのですが、
その後、せーりー君をゲージに入れても騒がなくなったのでした。

サリーちゃんの、ただ者ではない行動は、それだけではありませんでした。

せーりー君は、元々はお外の出入り自由の子猫だったので、
その副産物として、せーりー君は自分の身体にノミを飼っていました。
サリーちゃんが来るまで、それに気づかなかった私たちもいけないのですが、
サリーちゃんが来てから少しすると、そのノミは大量に繁殖して、
サリーちゃんにまで、取りついてしまったのでした。
せーりー君は短毛のネコだし、よく動き回るからか、皮膚も硬めで
ノミを捕るのは、そんなに難しいことではなかったのですが、
サリーちゃんは、長毛な上に、皮膚がものすごく柔らかくて、
ノミを手で取れる分は捕ろうと思っても、皮膚の中に入り込んでしまうのでした。

そのため、仕方なく、ネコに負担がかかるかなと思いながらも、
薬をばんばん使うよりはいいだろうと思い、一日おきにネコ洗いを行いました。
さすがのただ者ではないサリーちゃんも、お風呂は嫌なようでギャンギャン泣いていました。
お風呂も嫌だけど、その後の、ドライヤーも嫌がっていました。
でも、長毛のサリーちゃんは、ドライヤーをある程度かけないと
今度は風邪を引いてしまうかもしれません。そこで、サリーちゃんに
「ごめんね。でも、こうしないとノミがいなくならないから、もう少し我慢してね。」
と言い聞かせると、サリーちゃんは、じっと私の目を見つめ、
「わかった」と言わんばっかりに、急に静かになり、仰向けになったかと思うと、目を閉じ、
「信じてるから、好きにして」と言っているかのように、身を任せてきました。
でも、身体のすべてに力が抜けているのではなく、緊張は感じるので、
意識がなくなってしまったとか、そういうのでは決してないのです。
あくまで、サリーちゃんが意識して、私に身を任せるポーズを取ってきたのです。

この態度には、私は、またまた驚かされました。
自分がすごく嫌なことをされているときに、こんなことをするネコは、
後にも先にも、サリーちゃんしか見たことがありません。
やっぱりこの子、ただ者ではないかもと、つくづくと思った出来事でした。

他にも驚いたことはあります。
普通、ネコが人間の言葉を理解すると言っても、
それは、ある程度、大人になってからだと思ってました。
人間の子供が、少しずつ言葉を覚えていくように、ネコも人間と暮らしていくうちに、
人間の言葉を理解してくるものだと思っていたのです。
でも、あるとき、その考えを覆すようなことがあったのです。

その日は、私は一日、外に出かけていました。
暗くなってから家に帰ってリビングでゆっくりしていると、夫殿がいきなり、
「今日は僕はつくづく思ったことがあるんだ。」と言ってきました。
「なに?」と聞いてみると、
「サリーちゃんって、こんなに不細工なのに、よく生きてるなぁって思っちゃったんだ。」
と、大変失礼なことを、サリーちゃんの目の前で話し始めました。

ペルシャ猫の顔立ちは、とっても特徴的なことは、よく知られていることだと思います。
その顔立ちが、かわいいと思うか、ブチャと思うかは、それぞれの好みと思うのですが、
サリーちゃんの場合は、サリーちゃんの性格が子供なのに斜に構えたところがあるせいか、
いつも不機嫌な表情をしているので、さらにブチャに見えてしまうところがありました。
サリーちゃんの実家の四条さんが、サリーちゃんが最後まで売れ残ってしまうのではないかと
心配していたのも、その辺の要素も強かったのではないかと思います。
また、せーりー君は比較的ハンサム顔だったので、一日じっくりと見比べてしまった夫殿は、
サリーちゃんには通じないだろうと、そんなことを私に漏らしてしまったのでした。

すると、それまで、私たちのすぐ側でグルーミングをしていたサリーちゃんは、
その言葉を聞いたとたんに、夫に対して、「なによ!!」
と言わんばっかりに振り返り、夫をにらみつけました。
夫は意外なサリーちゃんの攻撃に、「おっ」と言ってたじろぎ、申し訳なさそうにすると、
「しょうがないわね!」と言わんばっかりに、またグルーミングを始めました。
そこで私が、「そんな見た目なんて、どうだって良いじゃない。こんなに賢い子なんだから。」
と夫に向かって文句を言うと、サリーちゃんは、またまた、
「そうよ、そうよ!!」と言わんばっかりにグルーミングを止め、再び夫をキッとにらみつけました。
そのあまりのタイミングの良さに、まだ生まれて数ヶ月しか経っていないのに、
こんなに言葉がわかるものかと、不思議に思ったと同時に、
さらにサリーちゃんが好きになった出来事でした。

そんなとき、なぜサリーちゃんがこんな風なのかを
納得できるようなある夢をみたのでした。

 

 

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