ミラムちゃんのこと その1

 

愛ネコのミラムちゃんに異変を感じたのは、
10月に入ってからのことだったと思います。

最初は、ちょっとしたできものが背中に出来ただけと思っていたので、
それほどは心配していませんでした。

でも、日が経つにつれ、ミラムちゃんの体力が無くなっていくのが
ハッキリとわかるようになってきたのです。

ネコは、体力がなくなってから、命の灯が消えるまでが
とても早いと聞いていたので、
もしかしたら、もうお別れの時が近づいてきたのかと、
そんな風に感じるようになりました。

そうしているうちに、ミラムちゃんの背中に出来たできものから
ウミが出てくるようになってしまったので、
自宅からは少し離れた所にあるのですが、
とても信頼が出来ると前々から感じていた動物病院へと
ミラムちゃんを連れて行きました。

そこの獣医さんは、ミラムちゃんがすでに高齢であるということで、
無理な検査は、むしろしない方がいいのではないかと提案してくれました。

ネコの本格的な検査は、全身麻酔をしなければならず、
それがかえって、ミラムちゃんの体力を奪うことになるということなのです。

私自身も同じように感じていたので、それに同意し、
ミラムちゃんの背中から出てくるウミだけを検査に回すことにしました。
そして、背中のお薬と、あとはサプリメントだけをもらって、帰ることにしました。

一週間ほどして検査の結果が出たのですが、やはり、資料が少なすぎて
そのできものが良性なのか悪性なのか、判断がつかないという結論でした。

しかし、ミラムちゃん自身は、みるみる体力がなくなってきたどころか、
後ろ足が、異常に腫れてきたのでした。
それはまるで、ウミが溜まっているように見えるのでした。
そのため、できものが転移したのだと思えてならず、
もう無理かもしれないと感じ、その頃から、
本格的にお別れの覚悟をしていたと思います。

とはいえ、念のために、足の件で
もう一度、病院に行って診てもらうことにしました。

ミラムちゃんを車に乗せているときは、
外はいつも良いお天気で、富士山がきれいに見えていたことが印象的でした。
それはまるで、ミラムちゃんの病気とは逆に、
目に見えない存在が、祝福してくれているようにさえ感じるくらいに
いつもいつも、美しい富士山を見せてくれていたのでした。

病院では、獣医さんは、ミラムちゃんの足の腫れには
そういう症状は、ほとんど見たことがないらしく、首をひねっていました。

しかし、ミラムちゃんの体力を気遣って、
触診以上の検査はしないでいてくれたのです。

もちろん、その病院に検査のための設備がないのかといえば
決してそうではなく、
逆に、犬やネコの体に、できる限りの負担がかからないようにと
麻酔のための部屋を作ったり等々、
いろんな設備を十分に備えているところなのです。

その獣医さんは、本当に、わんちゃんやネコちゃんの
体の負担や心のケアを第一に考えてくれる人でした。

ミラムちゃんにも、そんな獣医さんの優しさが伝わっていたようで、
ミラムちゃんが入っていたケージの柵に
何度も何度も、頭をこすりつける仕草をしていました。
それはネコにとっては、甘えの仕草です。

それを見た獣医さんは、
「こすってくれるんですか?ありがとうございます。
ありがとうね。」
と、ミラムちゃんに向かって、何度も話しかけてくれていました。

獣医さんは、「良くなるといいですね」
とは言ってくれていたものの、長年の感で
ミラムちゃんがもう長くないことをわかっていたのではないかと思うような、
優しいけど、悲しそうな目で、ミラムちゃんに話しかけていました。

それからというもの、自宅に帰ってからは、
ミラムちゃんが膝に乗ってくるたびに、
おそらく、これからミラムちゃんが迎える事になるであろう死について、
何度も何度も話を聞かせ、それは、誰にでも訪れることであって、
決して怖がる必要のないことなのだと、最後には付け加えていたのです。

ミラムちゃんは、いつも私の話をジッと聞いているような雰囲気で、
時々は、私の目を見つめ返したりしていました。

そして、ミラムちゃん自身も、これまで以上に、
動かなくなってきている身体を引きずりながら、
いつもいつも、あとを着いてきて、
少しでも長い時間を、一緒に過ごそうとするようになってきたのでした。


長くなりました。次回に続きます。